はじめに

東京・飯田橋にある凸版印刷の「印刷博物館」で、わたしが活版印刷のアーカイブに携わることになったのは、2001年のことでした。

ここには日本国内はもちろん、世界中から集められた活字や印刷機が並び、それらを使って印刷をすることが出来る活版工房があります。わたしの主な仕事は、来館者に活版印刷の素晴らしさや面白さを伝えるためのワークショップを行ったり、世界中から集めた活版印刷関連の資材の整理や機械のメンテナンス、活版印刷やタイポグラフィーの資料や書籍の整理や分類といった活版印刷にまつわるあらゆることがその対象でした。

この工房の際立った特徴は、リタイアした職人達を再雇用し、若いスタッフにその技術を直接指導することによって、活版印刷の技術を人づてに保存・伝承するという仕組みにあります。つまりわたしに課せられた最大の仕事はその技術を覚え、活版印刷がいったいどういうものだったのかを鮮明に「記憶」しておくことでした。

当時のわたしの上司は「これから10年が勝負だ。」いつもそう言っていました。

あれから10年、2011年。活版印刷の取り巻く状況は随分と変化してきたように思います。博物館でそして町工場で、わたしの見聞きした「この世の活版」について少しづつ書き綴ってみようと思います。



2011年10月7日